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楽器の弾き方遍歴

大学時代に弾いていたのは、
チェコの古い楽器でした。
f字孔から覗くと、
ラベルにJan Bastaと書いてある。
温かくて素朴な音色が素敵でした。
ただ、音量が出ないのが若い僕には少し不満でした。
素朴な温かい音色というのは、
裏を返せば発音がはっきりせず、
音がこもりがちであるという事。
学生時代の僕は新しい弦を試したり、
弾き方を工夫したりしながら、
よく響いて、遠くまで届く音を、無い技術を駆使しながら追求していました。今となってはいい思い出です。
大学四年でした。
いつの間にか世の中は僕を置いて、
21世紀になっていました。
大学を無事卒業できるのか、
果たして来年の今頃は無事就職できているのだろうか。
頭は漠然とした不安でいっぱいでしたが、
今思えば大して深刻でもなかった。

大学に専用棟というプレハブの建物がありました。
とにかくボロいその建物には、小規模なオケのリハーサルならできそうな広さの部屋が一つと、
あとその半分くらいの部屋と、
それにトイレかな、一応ありました。
そんな作りでした。
今でもあるのでしょうか。
専用棟。
とにかく汚い。
大きな部屋には隅にアップライトピアノが一台。
そこは合唱団の練習場所でもあったので、いつ調律しただか分からないそのピアノできっと音取りしてたんでしょうね。
演劇部もここで稽古してたようで、壁には舞台で使う道具が立てかけてあったり。
一言でいうならカオス。
そんな部屋で平日の夕方、
一人楽器を構え、少し高いその天井をじっと見つめながら、
力一杯大きな音をロングトーンで鳴らす。
鳴らし切ったあと、
じっと耳をすます。
部屋が響いているかどうか、
この部屋を響かせたかどうか、
耳はそれを確かめていました。

そうやって何日もやって、
気付いたことがありました。
一つは倍音
そしてもう一つは共鳴です。

バイオリンには4本の弦が張ってあります。
弦を押さえる位置によって、隣の弦が響いているのがわかります。それ以外でも、なんというか、楽器が鳴るツボみたいなものがあるのが分かりました。
そこの近辺を目指して音をとってゆく。
誤差があると鳴らないから、
近似値あたりでビブラートをかけて当てていく。
すると音がピーンと張りつめて、スコーンと抜けてゆく。弓はアタックを強めにしてあとは圧を抜きぎみて弓のスピードを上げる。それ以降、僕は10年くらいそんな弾き方をしていました。
弦の響きを妨げないように、弓が弦をがっつり捉える時間を最小限にしたいから、跳ばしぎみに弾く癖がついてしまいました。
いい癖ではありません。
共鳴を音程をとるガイドにしたのはいいのですが、
次第に旋律や音階の中の半音の幅が気になりだしました。
音階で言うと、3度と4度の幅だったり、7度と8度の幅だったりです。
そこを狭くすると気持ちがいい。
でも、その気持ち良さは単に狭ければいいのではないようでした。
例えばハ長調をファーストポジションで弾く場合に、まあ普通に考えて、D線の1の指と3の指の3分の1の位置に
2の指(中指)を置けばいいのだろうけど、それを狭くしたいという欲求は、つまり1の指が早く2にいきたいっていう衝動から来ているわけで、その時点で寄っていくのは2ではなく1だというわけです。
共鳴で音をとる立場として、3と4の指(薬指と小指)はそれぞれ左右の弦との関係上ズラせれない。でも例えば変ホ長調の場合は?
つまり3度と4度、7度と8度の関係における、下から押し上げるやり方をするなら、共鳴の考えは捨てなくちゃならないのです。
これを本当に厳密にやろうとしたら、音階練習がえらいことになりそうでした。
ところでバイオリンで平均律で弾ける人って、
すごいなあと思います。
僕はそこまで自分の感情をコントロールできません。
理想は使い分けられる技術でしょうけど、そこまでには沢山の知識と、あと考える力が必要なんでしょうね。
僕には一生無理でしょう。
右手のクセを治すのには、
5年くらいかかりました。
とにかくワンボウをゆっくり、
同じ密度を保って元から先まで弾けるようにしました。
弓の形状を意識することが、この作業に大いに役立ちました。
大学卒業後の数年間はアマチュアオケで過ごしましたが、この頃は、どちらかといえば、楽器演奏を身体面からのアプローチで追求していました。
このブログで何度となく話題にしている事です。
腕は何処から生えているか考える。
楽器は思ってるほど重くはない。
右手薬指を意識してみる。
左手指を扇子のように広げる。
などなど。
つまりは楽器を弾くための身体感覚を研ぎ澄ませる事で課題を解決しようとしていました。
それは一定の効果をもたらしましたが、
やはりそれだけでは限界がきます。
アマチュアオケをリタイアして、
基礎練とバッハを無限に続ける時代に入ると、
次第に身体だけでなく、
頭を使うようになりました。
例えば速いフレーズを正確に弾くためには、
究極的に無駄を削るしかなく、
つまりは事前に頭で準備して、
身体で先を見越して準備するしかない。
入念な準備こそが、それを可能にすると分かった時、
なあんだ、何でこんなことに気づけなかったんだろうと思いました。
古武術に近い話ですが、つまりは先の先を読んでしたたかに準備するしかないのです。
ある音を弾きながら次の次を予測して準備する。
その積み重ねだったのが分かったら、
なんだかちょっと夢がさめてしまった気分。


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