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赤いルージュ

水曜 午後四時。
出張帰り
地下鉄自由が丘駅
列車を待つ。

季節外れの台風のせいか、
やたら蒸し暑い。
ズボンのポケットから、
くしゃくしゃになった手拭いを引っ張り出して、
せわしなく額や首の後ろを拭う。
まったく定番な、
夏のオジサンの振る舞い。
だってオジサンなんだからしょうがない。

その昔、
良き若者であることは、
それほど難しい事ではなかった。
僕自身はといえば、
世間の求めるものと、
そもそもがズレてたけど、
周りを見れば、
どういう人が好かれる若者になれるかは、
なんとなく分かっていた。

良きオジサンである事は、
良き若者になる事に比べて、
別次元くらいに難易度が高い。
そもそもオジサンである事自体が、
世間一般において、
あまり好ましく思われない。


ところで、混んだ列車の中で、
一番居心地の良い場所は、
どのあたりだろうか。

僕の場合、
それは扉のすぐ横、
壁に広告が付いているスペース。
横座りの座席の一番端っこにある仕切り板にもたれて、
縦に伸びたパイプ状の握り棒につかまる。
そして、まるで満員列車の息苦しさから逃避するかのように、
窓にくっつかんばかりに頬を寄せて、
流れる風景を眺める。
地下鉄車内ならば、
ガラスに映る車内の光景を眺めている。

窓の無い薄暗い満員電車に、
詰め込まれる夢を見たことがある。
少しでも楽に息をするために、
天井を仰ぎ見て背伸びをする。
苦痛に対して、
次の駅まで出来ることはただそれだけ。
点滅する蛍光灯と、
フェルト状の埃がいっぱいの、
エアコンの吹き出し口。



車内が空いてきたので、
少し座ることができた。
やはり手拭いで首の後ろを拭いながら、
ぼんやりと車内の人間観察。

最近の若い人のファッションやメイクは、
1980年代から90年代にかけてのスタイルを模範としているらしく、
自分が中学生の頃に四つ上の兄が着ていたような、
なつかしいジャケット。
雑誌の広告やテレビCMでよく見た
真っ赤なルージュに太い眉毛の女性。
僕はファッションに疎いから、
これらを的確に描写することはできないが、
少なくとも言えるのは、
今名古屋大学前から乗ってきた男女の風景は、
妙に自分の過去の記憶を刺激するという事。
目の前にいるのは2018年に生きる大学生なんだけど、
分かっちゃいるけど、
僕の目には兄貴の友達に見えてくる。

その光景は少なからず僕を混乱させる。
何故ならその景色は、
あまりに個人的な記憶の一部を、
全く悪気もなく、しかし不用意に刺激するからだと気づく。

幼い頃、
人類は進化することはあっても、
退化する事は無いと、
テレビやラジオが言うように
そのまま、
何の疑いもなく、
ただ漠然と信じていた。
しかしこと文明についてはどうか知らないが、
人類自体は進化も退化もしていない。
たかだか20年、30年で人は進化などするはずがない。

ある周期で、
世代は交代し、
同じ事を繰り返してゆく。
伝統って言やぁカッコつくだろうけど。

金山に到着。
名鉄へ乗り換え。

ここ数日、
やたらと眠い。
原因はストレス。
長いエレベーターに立ったまま銀色の天井を黙って見上げた。



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