« 逃避しちゃえばいい | トップページ | noraneko gundan とフルート »

Embrace me

呆れる程の暑さ。
エアコンの部屋にいれば、
とりあえず暑くはないだろうけど、
かと言って快適かどうかといえば、
またそれは別の話。

どうやら、温度や湿度がどうのこうのといった話ではないらしい。
クーラーで部屋を冷蔵庫みたいに冷やしていても、
胸がやけに熱っぽくてボーっとしたり、
そのくせ足先は冷え冷えしていたりと、
身体はこの気候変化に上手く順応できていない様子。

自律神経の大混乱。

もういい加減
この国の気候は
半ば亜熱帯だと認めたらどうだろう。
豪雨はゲリラではなく、もはやスコールだ。
などと呟きながら、
今日はやり残しの仕事を放ったらかし、
早めに職場を後にする。

疲れた心と身体には、
それなりの癒しが必要である。

音楽は魔法だ。

僕はその魔力の恩恵により、
この歳まで生きてこられた。
大袈裟な話ではない。

小6のある日
夕方一人学校の廊下を歩いていると、
ふいに背後から衝撃を受け、
僕は顔から床に倒れ込んだ。
開いたランドセルから、
教科書やノートが僕の頭上を滑り落ちる。
背後から跳び蹴りを食らったのだ。
僕は当時、その抑圧された集団にとって、
ある意味で手頃な存在であったらしい。
つまり陰湿ないじめの対象だったのだ。
彼らはいつも、ちょっとした悪ふざけと称して、
信じられないような事をする。
信じられないのは僕だけで、
まわりのみんなは少しもそうと思ってない事実が、
僕を真っ黒に渦巻く、
あの時期特有の孤独へと引き摺り込んでいく。
散らばった教科書を一人拾い集め、
ランドセルに入れる。
僕しかいない。
長い長い廊下。


僕が音楽にのめり込んだのは、
ちょうどその頃だ。

応接間のステレオの、
大きなスピーカーの前、
仰向けに寝転がり、

夕陽を浴びた天井を眺め、
いとこのお下がりのアナログレコードを聴く。

コンスタンチンイワノフ指揮、
ソヴィエト国立放送交響楽団演奏
チャイコフスキー交響曲第6番。

たとえそれが録音されたものであっても、
ノイズの先には人の気配がある。
それが僕の荒れた心に響いたのだろうか。

思春期に入っていたから、
母親には、もう素直に甘えられなかった。

ありとあらゆる友人から
ことごとく裏切られていた僕は、
今思うと、
あの時、
ただ母親に抱きしめてもらいたかったのかもしれない。

Embrace me,my sweet embraceable you
Embrace me, you irreplaceable you

古いアメリカの歌。

「EMBRACEABLE YOU」
1930年発表。ガーシュウィン兄弟の作。

チャーリーパーカーの1950年5月のバードランドライブ。
この曲のみ歌が入っている。
ふいにそれが聴きたくなって、
それだけのために、
目に入ったコンビニの駐車場へ車を入れる。

便利な世の中になったものだ。
スマートフォンをイジれば、
即座に大抵の音源は聴ける時代。
パーカーが、バドパウエルやファッツナヴァロと共演した奇跡のライブ録音。
音質は最悪。
演奏は最高。

Bluetoothでスピーカーに音を飛ばしてから、
駐車場から車を出す。
夕日に向かう帰り道。
貪るように、
繰り返し繰り返し聴く。

毎日はどんどん複雑に絡み合って、
がんじがらめで身動きすらままならない。
僕はあとどれだけの年数、
こうやって不器用に生きてゆくのだろう。

鼻息荒いチャーリーパーカー35歳
ファッツナヴァロは27歳、
バドパウエルは41歳で死んだ。
早逝の天才たちの競演。

僕は彼らより長く生きている。
そして今夜も変わらずに、
1950年からやってきた、
彼らの残光に癒され続けている。

ところで、歌はChubby Newsomeという人らしい。
伸びのある歌声。絶妙な音選び。



|

« 逃避しちゃえばいい | トップページ | noraneko gundan とフルート »

ぼんやり日記」カテゴリの記事

音楽」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 逃避しちゃえばいい | トップページ | noraneko gundan とフルート »