« 相手が物である事の救い | トップページ | 人生は夢だらけ »

コシファントゥッテ

学生時代に一度だけ、
アマチュアオペラの舞台美術をやった事がある。
単に大人たちに都合が良いよう利用されただけなのだが、
当時は多少わくわくもしたし、
今となってはいい思い出だ。

大学一年の僕は、
先輩にうまい具合に乗せられて、
クラスの友達数人を引っ張り出し、
四枚のパネルを製作するはめになる。
結構ハードなたつ仕事、しかもノーギャラである。

学んだ事は二つ。

一つは刷毛の洗い方。
これは後々そこそこ役にたった。
毛先を鷲掴みして洗う。

もう一つ
こちらは全く役に立たない人生訓。
身の丈を越えるような役割を与えられる時、
大抵誰も、僕に対して期待してなんかいないということ。
集団や組織にとって、
一人の人間は所詮、
チェスの駒である。

これはその後の人生で痛いほど知った。
でもそれはそれで、
まあそういうものだ。
若い頃は、まだ納得できなかったから、
多少傷ついたけど。

本番が終わり、
僕は大学オケの部室にいた。
チューバの先輩が足のない僕を、とりあえずここまで送ってくれたのだ。
三月のことだ。
日付はとうにまわっていて、
あと一、二時間待てば日が昇り、
大学から駅に向かうバスに乗れる事が分かっていた。

僕は寒い部屋で一人、
眠るわけにもいかず。
部室のコタツに入りながら、
夜明けまで音楽を聴いて過ごすことにした。
ここで眠るよりも、
慣れたベッドで寝たかったのだ。
当然学生オケの部室だからクラシックのCDばかり。
少し迷ってから、
マーラーの五番目の交響曲の、
あの有名なアダージェットを聴くことにした。
バーンスタインが指揮してるやつだ。

入口のアルミ戸を開けて、
明け方の空、吸い込んだタバコの煙をぷはあっと吐き出す。
紫煙の先の星空が次第に青みがかり、
まるで何事もなかったかのように、
また新しい一日が始まる。
疲れた夜明けには、
特有の癒しがある。
鼻先をくすぐる、
淡くて漠然とした希望。

その後いろいろあったけど、
あの夜明けのアダージェットは、
多分一生ものだなあと思う。
そんな風景、
誰しも一つや二つ
あると思う。

Così fan tutte
女はみんなこんなもの


|

« 相手が物である事の救い | トップページ | 人生は夢だらけ »

ぼんやり日記」カテゴリの記事

音楽」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 相手が物である事の救い | トップページ | 人生は夢だらけ »