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塩尻で

下りの特急あずさを降り、
一度改札を出る。

中央線 塩尻駅

外は大分暗くなってきた。
特急しなの到着まで、あと一時間。
時間を潰すために、
改札横の喫茶店に入る。
甲府の大学にいた頃、
帰省する時に、よく利用した。

コップの水に浮かんだ四角い氷
カラカラと鳴る音が、
すうっとした空気に吸い込まれてゆく。
高い空、山々の濃い緑。
そんないつぞやの夏の記憶が、
匂いたつ気がした。

あれから二十年。
あの時と同じように、
今夜の僕は、楽器ケースと旅行鞄を、
向いのソファに置いて、
アイスコーヒーにさしたストローを、
くるくるとかき混ぜてみた。
カラカラと音を立てて回る氷。

すると、背後の木の扉を開けて、
ワイシャツを着たサラリーマンが店内に入るのが見えた。パンパンに詰まった手提げを脇に抱えている。

「すいません、えっと、7時に店閉まっちゃうんですけど、それでもいいですか?」
カウンター越しに店員が、申し訳なさそうに伝える。

「あ、そう。うーん、じゃ、またこんどにしますわ。」

カランカランというドアのベルを揺らして男は店を出て行き、店内はまた静まり返る。

柱の時計を見ると、
閉店までは、あと20分ほどあったが、
何だかダラダラ長居するのも気がひけて、
ぬるいコップの水を飲み干すと、
店を出ることにした。


夜の塩尻駅のホームの椅子で、列車を待つ。
かすかな風が心地よい。
自分の腿に両肘をついて前屈みになると、楽器を弾きすぎて凝り固まった首や肩が幾分楽になる。
しばらくそんな姿勢で首の裏に風を浴びてみる。


オケの演奏会が終わってしまった。

そして、また日常に戻る。

この感覚も久しぶりのこと。

つい数時間前に、
ステージで感じたあの音の感触が
まだ左の顎あたりに残っているような気がして、
ここ数日で急に固くなった左手の指先で撫でてみた。
少し伸びた髭が汗に湿っている。


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