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何でもない懐かしさ

おふくろの味って
肉じゃがだとか、
味噌汁だとか、
そうそう、カレーだとか。
よく言われるけれど。

例えば朝、玄関の扉を開けて外の空気に触れた時とか、
夕方、信号待ちの車内で、ピンク色に光る雲を眺めている時とか、
僕の脳裏に浮かぶ懐かしい味は、
肉じゃがでもなければ、
カレーでもない。

つまりそれは、丸い焦げ跡のついたトースト。
何故焦げ跡が丸いのかというと、
角形の石油ストーブの天板で焼いたから。
天板には、やかんを乗せた時に安定するように、円形に浮き上がった部分がるので、それが食パンに円い焼印をつけるのです。
そして、たっぷりマーガリンを塗りたくって食べる。

別に何てことはない。
トーストにマーガリンなのだけれど。

あと砂糖を入れた麦茶。

僕の通っていた小学校は、
家から2キロくらい離れていて、
子どもですから、毎日片道40分くらいかけて家まで帰っていた。
夏の暑い盛りは、
昼間に飲み干した空の水筒をひっさげて、
通学路脇にある雀荘前の、コカコーラの自販機を恨めしそうに眺め、
ちょっとした砂漠の旅人みたくうつむいて、
ゆらゆら揺れる真っ黒なアスファルトを眺めながら、黙って歩くしかない。
ただいまあと家に帰ると、母が冷蔵庫で冷やした麦茶に砂糖を入れてよく飲ませてくれました。
冷たい所に砂糖を入れるもんだから全然溶けないんだけど、
それをスプーンでかき混ぜて一気に飲み干すと、
さっと汗がひいて、
網戸越しのかすかな風を感じる。

何てことはない。
ただ砂糖を入れただけの麦茶だけれどもね。

それからもう一つ。
生の食パンにマーガリンぬたくって、砂糖をびっしりのっけたやつ。
かぶりつくと砂糖がひんやりする。

これもまた、
別に何てことはない。
パンにマーガリンと砂糖を乗せただけ。


その人にとっての大切な物なんて、
本当はそんなものなのかもしれません。


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