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夢十夜

雨は昼過ぎから降り始めた。
黒い土はぬかるみ、
泥から重いブーツの足を引き抜くと
その反動で体は前に倒れそうになる。
僕は肩からかけていたライフル銃をいつしか杖の代わりにして歩いている。

さっきから上官の怒声が聞こえてくる。
彼は僕の後方を走る戦車の上から叫んでいるのだが、何を言っているのか分からない。

いや、本当は分かっている。
そう
彼はこの僕に向かって
銃は尊い物だから、そんな扱いをするものではない。腰まで泥に埋まっても、銃は上に掲げるのが軍人たるものである。
と、戦車の上から怒鳴っているのだ。

僕は、内心思う。
それが何だっていうんだ。
こんな極寒の大陸で
押し付けの価値観を唱えられても
そんなものは所詮灰色の空に吸い込まれるだけじゃないか。

上官がもう一度叫ぶ声を遮るかのように
轟音が鳴った。
人というのは、とっさに爆音を聞くと動けなくなるものらしい。

暫く後、パンパンと数発乾いた銃声が聞こえ、
数メートル先を歩いていた兵士が泥の中に崩れ落ちた。
やっと僕は我に帰り、泥に身を沈めて銃を構える。
敵は見えない。どこに弾を撃ち込めば良いのかが分からない。
上官の声は聞こえず、
自分の心臓の音ばかりがするが、
それすら遠い空に吸い込まれてしまうような気がする。
さっきから僕の目の前を、柿の種くらいの小さな甲虫が歩いている。

この現実は子どものよくやるごっこ遊びの一種なんじゃないか?

空は高い。
一体こんな所で何をしているんだ。

僕は次の銃撃が始まるまでの間、必死に考えていた。
いかにすれば、この現実から抜け出して、あるべき生活に戻れるのだろうか。








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