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自然のエコー

昔、八ヶ岳のふもとでヴァイオリンのレッスンを受けたことがありました。

まだ、弾き始めて2年目でした。

先生は、優しくて上品なおばあさんで、

大学オケの仲間とその先生の別荘まで行き、レッスンしてもらっていました。

山の中はとても静かです。

秋のある日、ビオラの友達と別荘の外へ出て、楽器を弾いてみたことがあります。

音は林の中に吸い込まれてしまうのだけど、目を閉じ耳を澄ますと、少し余韻が残っていて、音を出した自分の場所が確認できるような気がしました。

いつもながらわかりにくい説明ですが…

全員のレッスンが終わると、先生は紅茶を入れてくださいました。

外はいつの間にか薄暗く、ストーブが部屋を照らしています。

オーディオからヴァイオリンの音が聴こえてきました。

バッハの無伴奏でした。演奏はヘンリック・シェリング。

「私この人のが好きなんだけど、」

戻ってきた先生は、いつものように穏やかな口調で話を始めました。

「娘たちは、音程が悪いわねって言うのね。カザルスのチェロもひどい音程だって。」

先生はテーブルからカップを手に取り、一口飲みました。

「でも、確かに音程は正確じゃないんだけど、何度聴いても感動するのよね。」

「今日、みなさんの音聴かせてもらって、確かに音程もひどいし、正確じゃないけれども、一人一人の人柄が音に出ていて、とてもよかったわ。みんなそれぞれの音で。」

それから、先生は左手をあげると、ヴァイオリンを持つまねをして

「指は心から繋がってきているのよね。だから、指は心を伝えるように動くのよ。」

と右手で胸を指差しながら話して下さいました。

実際にそういっていたかどうか、実は定かでありません。

なんせ1996年、10年も前の話しなんですから。

12月、雪の降るある日、その先生と最後のレッスンをしました。

大学を中退し、実家のある愛知へ帰ることになったのです。

最後に見てもらったのは、「バッハの2つのバイオリンのための協奏曲」の1楽章でした。

「新しい曲を練習するのも大事。でも、レッスンでOKがでた曲も、これからずっと機会を見つけて弾いて欲しい。同じ曲でも、弾くたびに発見があるし、簡単な曲でも、人前で堂々と弾けるように。」

外に出ると、雪は激しくなって、フロントガラスが凍ってしまっていました。

お湯をかけてもすぐ凍ってしまうので、ガリガリとヘラで落とし、駅まで送ってもらいました。

あれから、10年。

あいかわらず下手ですが、変わらず楽しく弾いています。

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